次亜塩素酸水とは?

「次亜塩素酸水」という言葉には、あまり聞きなじみがないかと思います。また、この言葉から危険な物質とのイメージを持たれるかもしれません。しかし、次亜塩素酸水はとても有用で使い方を間違えなければ安全な物質なのです。

そもそも、次亜塩素酸(化学式:HClO)とは塩素を水に溶かすと発生する物質で、その水溶液(次亜塩素酸水)は酸性であり、殺菌・漂白作用があります。色は無色で無臭、またはわずかに塩素のにおいがあります。

厚生労働省によって「殺菌科」(食品添加物のうち殺菌効果を目的とした物質)の一種と定められており、その殺菌力は国によって認められているのです。 ただ、大量の塩素を用意して水に溶かすのは大変なので、工業的には塩酸または食塩水を電気分解することで精製しています。

次亜塩素酸水の種類

次亜塩素酸水は濃度によって、3つに分類されています。

  1. 強酸性次亜塩素酸水(pH2.7以下)
  2. 弱酸性次亜塩素酸水(pH2.7~pH5.0)
  3. 微酸性次亜塩素酸水(pH5.0~pH6.5)

主に家庭用では、「3」の微酸性次亜塩素酸水で使用することが多いようです。業務用あるいは殺菌力を高めたいときに、「1」の強酸性にする場合もあります。ただし、「1」や「2」の場合、金属と反応してしまうこともあるので注意が必要です。

※pH:pHとは、真ん中が7の時が中性で、0に近づくほどに酸性の濃度が高くなり、14に近づくほどにアルカリ性の濃度が高くなることを示す指標です。つまり、7から離れれば離れるほど、酸性(アルカリ性)の力が強くなるのです

次亜塩素酸水の効果は?

その第一の効能は、殺菌力の高さです。大腸菌やサルモネラ菌などの菌を1分以内にほぼすべて殺菌できたという実験結果が厚生労働省に提出されています。(その他効果が確認された菌:黄色ブドウ球菌、MRSA、緑膿菌、レンサ球菌、枯草菌、カンジダ、黒コウジカビ)(※1)

また、ウイルスにも有効で、ノロウイルスやヘルペスウイルス、インフルエンザウイルスへの不活化も報告されています。(※2)

ちなみに、アルコールは枯草菌などの芽胞(一部の細菌が持つ極めて耐久力の高い細胞構造)を持つ細菌や、ノロウイルスには効果がありません。(※3)
しかし、次亜塩素酸水はそのどちらにも有効です。市販品例)バイバイ菌 次亜塩素酸水

第二の特徴として、安全性の高さも挙げられます。

そもそも次亜塩素酸水は、平成14年に厚生労働省から食品添加物に認定されています。(ただし、決められた範囲内でなら摂取しても人体に影響がないということだけなので、積極的に体内に取り入れるべきではありませんし、体内に取り込んだところでただの水になるだけなので意味はありません)

微酸性次亜塩素酸水(pH6.5、有効塩素濃度 70.2mg/kg)にほうれん草を10分間ひたし、残留塩素を計測したところ、ほとんど塩素が検出されなかったという実験結果が厚生労働省に提出されています。(※1)

また、強酸性次亜塩素酸水(pH 2.5~2.6、有効塩素濃度 27~28 mg/kg)でキュウリ、キャベツ、牛肉、鶏肉を洗浄し、食品の残留塩素を測定したところ塩素は検出されませんでした。(※1)

つまり、次亜塩素酸水は食品に浸み込んだり混ざったりすることはなく、水ですすげば残留することはないと証明されたのです。そして、食品安全委員会によって「使用後、最終食品の完成前に除去される場合、安全性に懸念がないと考えられる」と発表されました。(※4)

さらに、食品を殺菌するために使用した場合に栄養成分への影響がないことも報告されています。カット野菜(キャベツ、レタス、キュウリ、ニンジン)を、強酸性次亜塩素酸水(pH2.5、有効塩素濃度 42.3mg/kg)に10分間ひたしたところ、水道水にひたした場合と比べると、色素の含有量の変化とビタミンCの含有量の変化に差異が見られなかったのです。(※5)

次亜塩素酸水のデメリット

では、次亜塩素酸水にデメリットはないのでしょうか?

デメリットの一つとして、入手しにくさが挙げられます。
やはり、除菌と言えばアルコールのイメージが根強く、次亜塩素酸水の商品化はあまり進んでいません。また、簡単に作ることもできないので、家庭で作るためには生成装置が必要となります。

さらに、使い方(濃度)を誤ると危険であることもデメリットとして挙げられるかもしれません。ただ、こちらは用法と用量を守りさえすれば問題はありません。
そして、もう一点デメリットとして、反応性が高いため長期保存に向いていないということが挙げられます。未開封であっても半年から1年が使用期限となっています。
さらに、日光(紫外線)に当てると分解されてしまうので、必ず遮光性のある容器に保存しなければいけません。こちらも、アルコールに比べて、次亜塩素酸水の商品化が進まない原因となっているのでしょう。(ちなみに、amazonで「次亜塩素酸水」と検索すると919件の商品が出てきますが、「アルコール」と検索すると119,155件もヒットし、「アルコール除菌」と検索しても1,644件ヒットします)

次亜塩素酸ナトリウムとの比較

次亜塩素酸ナトリウム(次亜塩素酸ソーダとも呼ばれる)は、「ハイター」や「ミルトン」といった殺菌・漂白剤として広く流通しています。
次亜塩素酸水とは名前が似ていますが、科学的性質に違いが見られます。ではこの次亜塩素酸ナトリウムと次亜塩素酸水を比較してみましょう。(※5、※6)

次亜塩素酸水次亜塩素酸ナトリウム
液性酸性アルカリ性
臭い ほとんどなし(若干の塩素臭がすることもある) 強烈な塩素臭
用途 殺菌 殺菌・漂白
人体に対する影響 微酸性であれば、体内に入っても影響はない
手荒れも起きにくい
(*実験動物による安全性実験を参照)
皮膚・粘膜を刺激 ・目に入った場合は、激しい痛みを感じ、すぐ洗い流さないと角膜がおかされる
・長期にわたって皮膚に接すると、皮膚炎、湿疹を生じる
・ミストを吸引すると気道粘膜を刺激する
使用上の注意 濃度が高いと金属を腐食させる可能性がある ・有毒ガスが発生するので、酸性の溶液(塩酸など)と混ぜてはいけない
・金属への腐食性が強いので金属製品には使えない

どちらも殺菌力は高いのですが、一般的に、酸性よりもアルカリ性の溶液の方が危険な場合が多く、人体への影響も大きいのです。

*実験動物による安全性実験 微酸性次亜塩素酸水(pH 5.0~5.5、有効塩素濃度 50~80 mg/kg)をマウスに飲ませたところ、死亡例は認められず、中毒症状を示す動物も認められませんでした。また、ウサギを用いた微酸性次亜塩素酸水の皮膚に対する刺激実験、眼への刺激実験においても異常は認められませんでした。(※7)

まとめ

いかがだったでしょうか。

次亜塩素酸水は、既存のアルコール製品よりも殺菌作用やウイルス不活性化作用が強く、次亜塩素酸ナトリウム系の製品よりも安全で人体への影響も少ないのです。ただ、対象物を素早く除菌するがゆえに分解が早く、長期保存には向いていません。そのため、普段使いは次亜塩素酸水を、備蓄用にはその他の製品を、といったように目的に応じて使い分けていくのが、賢い選び方であると思います。